教養学(化学)
所属メンバー
| 准教授 | 布施 恵 |
講座の特徴
歯科医師として治療に携わるにあたって,高齢化,地球環境問題など社会の大きな変化とともに,様々な背景をもった患者さんと接する機会が増えています。それに伴って,歯科医師の担う領域も拡大し,災害歯科,再生歯科,摂食・嚥下リハビリテーション,睡眠歯科,インプラントなどの需要が求められています。
歯科大学における教養教育は,専門知識の習得に先立ち,人間を広く深く理解する力を養うことを重視しています。これらを踏まえ,本講座の化学では,授業の内容に歯科医療の内容を積極的に取り入れ,基礎化学を基盤としながら,歯科医療につながる構成で授業を行っています。大学入学直後から基礎歯科医学に関わることで,専門科目の保存,補綴,口腔外科,口腔衛生などへの橋渡しとなることを目指しています。その軸として,化学における周期表を基に,授業を組み立てています。周期表に並ぶ多くの元素をこれほど広く,かつ日常的に最先端の技術として扱っている分野は,歯科領域をおいて他にありません。周期表を読み解く力は,歯科医師にとって,臨床,研究において最も根源的で,実践的な「武器」です。
歯科という学問の入り口に立った,学生たちが,化学を通して歯科医療への理解を深め,興味をもって楽しんで学修できますことを願っております。次の学年・専門科目への足がかりとしての一助となるよう,本講座では,CBT,OSCE,歯科医師国家試験につながる基礎的知識の理解と応用力の育成を意識した授業を展開しています。
研究内容
1.生分解性高分子材料の分子設計と機能制御
ポリ乳酸(PLA)をはじめとするポリグリコール酸(PGA),ポリεカプロラクトン(PCL)などの生分解性高分子および共重合体について,分子構造や化学修飾が材料特性や分解挙動に及ぼす影響を解析しています。これらの生分解性高分子は,高校化学の合成高分子化合物の項目の中の機能性高分子化合物としても学んでいます。この項目は,歯科領域では,生分解性高分子材料として歯周組織や顎骨の再生などの素材として長年使用している材料に関連しています。アルカリ処理,酸処理といった様々な化学的表面改質を通じて,生体内環境に適した材料設計を行い,歯科用材料および再生医療材料としての応用可能性を検討しています。
2.生分解性高分子材料への生体分子の固定化と生体親和性評価
高分子材料表面へのコラーゲンやタンパク質などの生体分子固定化技術を確立し、骨芽細胞様細胞や線維芽細胞を用いた細胞接着・増殖挙動の評価を行っています。材料表面の状態が,骨芽細胞や線維芽細胞の細胞応答に与える影響を明らかにし,材料と生体組織との界面制御に関する基礎的知見の蓄積を行っています。
3.チタンインプラントの高機能化
化学処理による表面改質技術を用いて,金属材料のチタンの表面特性を制御し,骨芽細胞挙動や生体親和性に及ぼす影響を評価しています。これらの研究を通じて,材料と生体組織との接合性向上を目指しています。
4.ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料の創製
高分子材料のPEEKが,近年注目されている。一般にインプラントに使用されている金属材料は,腐食の可能性,アレルギー性,大きな弾性率が問題となっている。PEEKは、優れた機械的特性,比較的低い弾性率,耐薬品性,耐滅菌性,化学的に安定であることから,チタンに変わる代替材料として研究が進められています。化学処理,紫外線処理,などの表面改質技術を用いて,高分子材料の表面特性を制御し,骨芽細胞の接着・増殖挙動や生体親和性に及ぼす影響を評価している。これらの検討を通じて,材料と生体組織との界面における相互作用を最適化し,インプラント周囲の骨形成を促進するために高機能インプラント材料の創製を目指しています。
5.全身性疾患に関連する口腔疾患の病態の歯科治療と評価
シェーグレン症候群,全身性エリテマトーデス,強皮症などの自己免疫疾患や,糖尿病などの代謝性疾患は,歯科医師国家試験ではおなじみであり,これらの口腔症状に着目した口腔乾燥,粘膜病変、歯科治療上の問題点について研究および臨床的検討を行ってきました。これらの疾患を有する患者に対して,全身状態を考慮した歯科治療および口腔管理を実践し,歯科医療の質の向上に貢献することを目指しています。
6.化学的視点に基づく歯科材料評価と臨床応用への展開
歯科医療分野でポリ乳酸(PLA)を使用したバイオフィルム・メンブレン,スキャフォールド基材に生理活性物質のコラーゲン,フィブロネクチン,ラミニンなどを材料表面に固定化した研究が多く報告されています。しかし,材料表面におけるタンパク質の吸着を支配するサブナノメートルスケールでの相互作用機構については,十分な解明はされていません。
本研究では,密度汎関数理論(Density Functional Theory: DFT)を用いた量子化学計算により,PLAおよびコラーゲンモデルにおける電子構造,結合特性,分子軌道を解析しています。さらにフロンティア分子軌道理論を用いて,PLAとコラーゲンなどの生物分子,ハイドロキシアパタイトなどの分子間における相互作用を明らかにすることを目指しています。これらの解析により,従来は,経験的に議論されてきたPLA 表面改質と生体分子の固定化の効果を電子状態に基づく理論的根拠から説明することが可能となります。これらの知見は,材料と生体分子の相性の予測精度を高めることができ,生体材料設計の合理的な構築や歯科・再生医療に用いられる高機能材料の創製につながります。


