患者さんからの素朴な疑問

歯はどうして痛くなる?:むし歯の成り立ちと予防

Q:なぜむし歯や歯周病になるのでしょう?
歯の痛みの原因は,色々あると解説しましたが,やはり一番の原因はむし歯です。そこでむし歯の成り立ちと予防法について,色々な立場から4人の先生に解説していただきます。
実はむし歯も歯周病も感染症です。例えば,生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中は無菌状態です。しかし,歯が生えると感染が始まります。菌を持つ親が口移しに食べものを与えたり,誰かとキスをすることでむし歯菌や歯周病菌が感染します。

ところが,感染しただけではむし歯にも歯周病にもなりません。
むし歯は唾液の性質,量や食事習慣(間食),歯の掃掃状態(ブラッシング)が悪いと発症します。さらに歯周病は喫煙や糖尿病の有無によっても影響を受けて発症します。

食事習慣や歯の清掃状態に関しては分かると思いますが,唾液の性質や量ってわかりますか?



唾液の働きと作用

歯科検診を行っている
図1.歯科検診サービス
1.歯を再石灰化する。
2.歯を溶かす原因となる糖やプラーク(バイ菌のかたまり)を洗い流す。
3.細菌によって酸がつくられ酸性になるところを,中性に戻す。

これらの作用から唾液はむし歯や歯周病に対する重要な抵抗力であり,唾液の分泌量が多いほど良く,また,中性に戻す性質(唾液緩衝能)が高い方が良いのです。

そこで,当病院のう蝕リスク検査や歯周リスク検査は,これら全ての要素を問診や口腔内検査,細菌検査で調べ,「何が原因でむし歯や歯周病になりやすいか」を判断します。その検査結果をもとに,患者様個々に異なるリスクに合わせた予防法プログラムを作成します。



う蝕リスク検査・歯周リスク検査の手順

培養したむし歯菌
図2.むし歯菌を培養しているところ
1.担当医が簡単な問診をします。
2.ガムを噛んで頂き,5分間の唾液量を測定します。

これで患者様にして頂くことは終了です。後は,ドクターの仕事です。その唾液を使って細菌培養を行い,細菌数を調べます。検査結果は1週間ほどで出ます。検査結果が出たら「どこに問題があるのか」を報告書にまとめ,患者様自身にあったオーダーメイドの予防法を作成し,実施していきます。

これからの医療は治療ではなく予防です。むし歯や歯周病になってから病院に行くのではなく,病気にならないために病院に行くことをおすすめします。


むし歯菌の除菌

私どもの講座は,むし歯の予防や治療法に関する学生教育と診療ならびに研究を行っている歯科臨床の一分野です。では最近のむし歯予防法について述べてみたいと思います。

ミュータンス菌とその感染
むし歯の原因菌は,よく知られているミュータンス菌で,歯の主成分であるヒドロキシアパタイトに付着する性質をもっています。そのために歯の生えていない乳幼児の口の中には存在しません。その菌の多くは近親者からの感染であろうと考えられるようになりました。しかし,感染したからすぐにむし歯になるわけではありませんが,むし歯になるリスクが高くなります。

そこで,ミュータンス菌の除菌法として,最近では「PMTC」・「3DS」という方法が行われるようになりました。PMTCとは歯科衛生士さんが専用の器具を使用して1本1本の歯をきれいに磨き上げることをいいます。時間は30分程度で,痛みをともなうような治療ではありません。


歯の清掃と除菌方法
歯科衛生士によるPMTC
図3.歯科衛生士によるPMTC



3DS用マウスピースを装着
図4.ミュータンス菌を殺菌する3DSに使用する装置
3DSとはマウスピースの中に薬剤を入れて,ミュータンス菌を殺菌する方法です。口の中は唾液や飲食物の影響で,殺菌剤を一定の場所に留めておくことができません。


また,口の中の細菌は良い働きをする細菌も多く存在し,口の中の環境を維持しています。そのような善玉菌を殺菌してしまうと,悪玉菌が増えてしまうこともあります。したがって,マウスピースを用いることで,薬剤を歯の周囲だけに効率的に作用させることができます。


セットで効果的な除去

このPMTCと3DSはワンセットで集中して行うと効果的です。1週間の内に2回のPMTC・3DSを診療室で受けて,ホームケアの3DSは自宅で1日1回10分間を7日間だけ行います。そうすると,人にもよりますが,1年間ぐらいはミュータンス菌が口の中にほとんどいなくなります。しかし,唾液中や粘膜に残った菌が徐々に増えてきます。そこで,1年後には再び同様の処置を受けます。

なお,PMTCと3DSを行ったからといって毎日の歯の手入れを怠ると菌の数がすぐに元に戻り,むし歯のリスクも元に戻ってしまいます。しかし,むし歯ができてしまっても,1年に1度定期的に来院することで,むし歯の早期発見と治療が可能になります。このPMTCと3DSは当大学病院のオーラルリフレッシュ外来と保存科で主に行っております。


むし歯の予防と健診

予防医療の推進とお口の健康づくり
健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)や健康増進法では,生涯を通じた歯及び口腔(こうくう)の健康推進,健康寿命の延伸及び生活の質の向上を実現することを目指しています。そして健診による早期発見又は治療とともに,健康を増進し,疾病の発病を予防する「一次予防」に一層の重点を置くことが推し進められています。

このようななかで予防医療の推進と健診によるお口の健康づくりは極めて重要と考えられます。そこで,病気の発現リスクの早期発見により発病予防を目的とした日本大学松戸歯学部付属病院の検査や健診についてご紹介します。


予防を重視した専門性の高い歯科健診
いつまでも健康なお口を保つためには,ライフステージにあわせて予防的見地に立った病気のリスクを予測したうえで,患者さんに適切な保健指導や予防処置,また必要に応じて治療を行うことが重要となります。

そのためにはお口についての多様な情報を健診等で収集し,リスク因子を把握し,それらのリスクをコントロールすることが必要となります。むし歯の発生には,むし歯菌や糖を含む飲食物の種類や食べ方(食べる回数)などによる歯を悪くする要因と,唾液量,唾液緩衝能及びフッ素の利用などによる歯を守る要因とのバランスが深く関与しています。それぞれの因子を調べる検査を組み合わせ,包括的なリスク因子の分析によって,より確かなリスク判定を行うことができます。

当病院の「歯科人間ドック外来」では新しい技術や検査法によるむし歯のリスク診断,そして歯周病及び口臭検査を行っています。具体的には唾液の性状,むし歯菌数と歯周病菌の存在の検査,さらに生活習慣,全身状態などの要素も考慮してリスク診断を行います。


子どものむし歯予防

ブラッシング指導と食事指導
当科の「ブラッシング指導」は歯科医師と歯科衛生士が行っています。歯口清掃習慣と歯垢付着状態をもとに問題点を小児と保護者の方に説明し,正しい歯口清掃の習慣づけを行っています。

小児は歯と歯の間にむし歯ができるケースが多いので,「デンタルフロス」の使用も低年齢から推奨しています。

食事指導は主に「シュガーコントロール」という砂糖の摂取量に重点を置いたものです。お菓子だけではなく,スポーツドリンクや果物,野菜ジュースにも多量の砂糖が使用されているものがあり,注意が必要です。


予防填塞(てんそく)=シーラント
予防填塞後の六歳臼歯
図6.シーラントによる予防填塞。
深い溝を埋めました。
予防填塞前の六歳臼歯
図5.生えたての子供の歯。
溝が深くむし歯になりやすい状態です。
生えたての乳歯や永久歯は,歯が磨り減っていないので溝が深い状態になっています。また石灰化が完了していないので歯の表面は軟らかです。

このような理由から,生えたての歯の溝に詰まった食べかすは,歯ブラシで完全に除去しにくく,むし歯になりやすい状態になっています。

「予防填塞」は,歯の溝をシーラント材(詰めもの)で埋めてしまうことで,食べかすが溝に詰まらないようにし,むし歯の発症を予防する方法です。


歯面清掃(PMTC)

むし歯の原因となる歯垢は「バイオフィルム」というたくさんの種類の,細菌の集合体が歯に付着したもので,バイオフィルムを歯ブラシだけで完全に除去することは困難です。

当科では「PMTC」と呼ばれる歯科器材を用いたプロフェッショナルな歯面清掃により,バイオフィルムの除去を行っています。

一度バイオフィルムを除去すると,再度形成されるまでに時間がかかるので,定期的にPMTCを行うと高いむし歯予防効果が期待できます。

フッ素の使用
最近,フッ化物,いわゆるフッ素入り歯磨き粉のテレビコマーシャルをよく目にしますが,フッ素は歯の表面の結晶構造を変化させ,むし歯の原因となる酸に溶けにくくすると同時に,歯の表面の再石灰化を促進する効果があります。

生えたての歯は特にフッ素に反応性が高いので,大人よりも子どもの方がフッ素の使用が効果的であると言えます。

フッ素の使用法には(1)歯科でのフッ化物塗布,(2)学校単位や自宅で行うフッ化物洗口,(3)自宅でのフッ化物配合歯磨剤の使用,があります。

これらは主にフッ素の濃度に違いがあり,それぞれ使用頻度や用量が異なりますので,取扱いについては歯科医師に相談してください。


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