患者さんからの素朴な疑問

歯ぐきの出血だいじょうぶ?

Q:歯肉(歯茎:歯ぐき)から血が出るのはなぜですか?
肉(歯茎:歯ぐき)から自然に血が出たり,食事した後に血が出たり,歯ブラシで掃除したら血がでたりすることがあります。そのほとんどは歯肉炎や歯周病という歯肉の病気ですが,時には血が止まりにくい血液の病気だったりするので,特に小さいお子様の歯ぐきから血が出て止まらない場合には注意が必要です。もちろん大人でも歯周病は,放置すると歯が抜けてしまったり,最近では全身の病気との関連が指摘されていますので,早期発見,早期治療が必要です。それでは,このページでは歯周病について,歯周科の小方先生に解説していただきます。

歯周病とその治療

正常なお口の中(上)と重度な歯周病のお口(下)
図1.健康な歯肉(歯茎:歯ぐき)(上)と重度の歯周病の歯肉(下)
歯科の2大疾患は,う蝕(虫歯)と歯周病です。歯周病は,以前は歯槽膿漏(しそうのうろう)と呼ばれていた疾患です。歯科疾患実態調査によると,若年者のう蝕は減少傾向にありますが,逆に歯周病の罹患率は増加しています。

歯周病とは
歯周病は歯と歯肉(歯茎:歯ぐき)の境界にあるポケットと呼ばれる溝の中で歯周病原細菌(歯肉縁下プラーク)が増殖し,その細菌の感染によって炎症が生じて,発症・進行するものです。

初期の歯周病を歯肉炎,進行したものを歯周炎と呼び,歯周炎になるとさらにポケットが深くなり,病変が悪化します。

プラークの増加と嫌気性菌の増殖が主な病因
歯肉縁下プラーク中の細菌が歯周病の主な病因であることが明らかになったのは,ここ 30~40年間のこと。
その結果,歯周病の発症は歯肉縁下プラークの量が増えることに加え,プラークを構成する細菌の質が変化すること,つまりポケット内に空気を嫌う嫌気性菌が増殖することが明らかになりました。

歯肉縁下プラーク1ミリグラム中には1億から10億個の細菌が生息します。ポケットの中で細菌は浮遊状態で存在するのではなく,他の多くの細菌と凝集塊を作り,細菌が産生する糖に包まれてバイオフィルムと呼ばれる集塊(しゅうかい=かたまり)を形成します。

バイオフィルム中の細菌は白血球や抗体などの攻撃や抗生物質等からも防御され,歯周病が慢性化する要因になっています。


全身疾患への移行
また集塊のまま剥離すると,全身へと拡散して遠隔の臓器に傷害を与え,全身疾患の原因となることが明らかになってきました。

また近年,歯周病原細菌の菌体成分や代謝産物が直接的に歯周組織に傷害を与える直接作用以外に,宿主の免疫応答や代謝を撹乱し,過剰な免疫,生物学的反応を誘発して,組織傷害を導く間接作用が重要な病因であることが分かってきました。


自覚症状がないことで病状進行
歯周病は進行する過程でほとんど痛みを伴わないため,自覚症状が少なく,症状が出現したときには,非常に病状が進んでいる場合が少なくありません。

そのため,気付いた時には重度の歯周病で抜歯しなければならないケースが多々見られます。歯周病の治療は,以前は対症療法が主なものでした。対症療法というのは歯肉が腫れたら投薬したり切開を行い,歯石が沈着したら歯石を取るなどといったその場限りの治療法のことです。

しかし,歯周病の原因が除去されていないために,根本的な治療法にはなり得ませんでしたが,最近では歯周病の原因を除去する「原因除去療法」が主な治療法となり,歯周病の治療が一段と進歩していきました。 中でも重要なのは,歯科医や歯科衛生士による「歯ブラシ指導」と患者さんの口腔衛生に対する「意識を向上させる指導」です。


意識の向上がポイント
歯ブラシ指導は歯ブラシの,テクニックの指導のことですが,歯ブラシを“頑張ってやろう”いう意識の向上がなければ,正しい歯ブラシを毎日行うことはできません。

つまり,口腔内のプラークや歯石を単に取るのではなく,プラークの成り立ちや歯石が沈着する原因を患者さんに説明し,プラークや歯石が付かない口腔内環境を作り出すことが重要です。


検査方法と治療
歯周ポケットの測定
図2.歯周ポケットの測定
歯周病の治療を健康保険で行う場合は「歯周病の診断と治療のガイドライン」の指針に従って進めます。始めに検査(歯周組織検査)を行い,検査結果を基に診断名を決め,治療計画を立案して計画的に治療を行います。

治療の区切りには,必ず歯周組織検査を行い,治療効果を判定(再評価)します。そのため,検査を繰り返し行うことになります。検査では(1)ポケットの深さの測定,(2)歯の動揺度の測定,(3)歯と歯肉(歯茎:歯ぐき)の境界に付着したプラークを赤い色素で染め,プラークの付着状態を測定し,染色部分を見ながらの歯ブラシ指導を行います。

見た目と進行度が異なる
過去には歯周組織検査を行わなくても,視診や触診で歯周病の診断や治療方針の決定が可能だと考えられていた時代もありました。しかし,見た目と進行度が異なることが多いので歯周組織検査とエックス線検査の結果を組み合わせて適切な診断を下すことが重要です。


歯ブラシの効果
1歯ずつの縦磨きによる歯ブラシをしている写真
図3.1歯ずつの縦磨きによる歯ブラシ
歯周病が進行して歯周ポケットが深くなると,一般的な歯ブラシの毛先は奥まで届きません。最近では毛先が細くしなやかで,歯周ポケット内や歯肉(歯茎:歯ぐき)のマッサージ専用の歯ブラシが手に入るようになったので,これを利用すると良いでしょう。

歯ブラシを縦に持ち,歯軸に平行に当て,ポケットに毛先を挿入して歯ブラシを振動する様にマッサージを行う方法(1歯ずつの縦磨き)や,歯面に約45度(上の歯では上向き,下の歯では下向き45度)の角度で毛先をポケットに入れ,ポケット内のプラークを除去する方法(バス法)などが効果的です。

根気よく続ける
効果は歯ブラシを始めて数週間後に現れるため,毎日根気強く続けることです。「1週間休暇を取るので,入院して歯周病を完全に治して欲しい」と何人かの患者さんから言われたことがありますが,これは無理な相談です。歯周病の治療は傷が少しずつ治るのと同様に,治療に多くの時間がかかるのです。

症状により異なりますが,1年以上かけて治療をし,その後の定期検診は一生です。このように,患者さんにとっても,歯科医にとっても歯周病の治療は長く険しいものですが,諦めず根気よく続けることが大事です。


歯石の種類と除去法
歯ブラシの指導によって歯肉の炎症が軽減すると,まず歯石の除去「スケーリング」を行います。歯石には歯肉の上の見える部分に付着する歯肉縁上歯石と,歯周ポケット内の根面に付着する歯肉縁下歯石があります。

歯肉縁上歯石は超音波や手用スケーラー等の器具で簡単に除去できますが,歯肉縁下歯石を除去するためには麻酔が必要です。

ポケット内のプラークや歯石中の細菌毒素は歯根の中まで浸透するため,毒素を完全に除去するためには歯根の表面を一層削り取る操作が必要です。

これを根面の滑沢化(スケーリング・ルートプレーニング=SRP)と呼び,大変な技術と時間を必要とします。

歯周炎による顎の骨の吸収が少ない場合(軽度歯周炎)は,SRPが完了するとほとんどの症状は軽快します。

歯周外科手術を必要とするケース
一方,ポケットが深く骨吸収が著しい場合(中~重度歯周炎)は,歯周外科手術が必要になります。

ポケットに近接した炎症性の歯肉を一層切除し,汚染された歯根表面のSRPを行い,除染されたポケット内面と歯根面を密着させ,付着させてポケットを浅くすることを目的に歯周外科手術が行われます。

歯周炎により顎骨に吸収が認められる場合は,骨の一部を削除して形を修正したり,骨欠損部への骨移植を行います。

歯周炎による骨吸収部位は炎症性肉芽で満たされているため,肉芽を完全に除去し,骨が再生するスペースを確保する必要があります。

歯肉は非常に早く治癒しますが,骨の再生には数カ月かかり,骨再生のスペースに歯肉の細胞が入り込むと骨の再生が妨げられることもあります。


歯周組織再生誘導法
歯周組織再生誘導法を行っているところ
図4.歯間部へ再生誘導膜を挿入
最近では歯周炎によって失われた歯周組織を元の健康だった状態にまで再生する「歯周組織再生誘導法」が臨床応用されています。

この方法は厚生労働省で認可された手術法で,日本大学松戸歯学部付属病院でもその手術を受けることができます。

具体的な方法は手術時に歯肉と骨欠損部の間に再生誘導膜を挿入し,膜の内側にある組織由来の細胞による歯周組織再生を期待します

前進している組織再生法
組織再生法の術前、術後のエックス線画像
図5.左は術前,右は手術3カ月後のエックス線画像で,矢印部分に骨の再生が認められます
開発された当初はテフロン膜が主に使われていましたがテフロン膜は生体内で吸収されないため,膜を除去する2次手術が必要でした。

しかし,最近では生体吸収性の膜が開発され,2次手術が必要なくなりました。本病院でも吸収性膜を主に使用して歯周組織再生誘導法を行っています。

またエムドゲインという,ブタ歯胚から抽出したタンパク質を使用する歯周組織再生誘導法も行われるようになって来ました。

この様に,昔から考えると夢のような治療法が開発され,歯を抜かずに保存できる時代になりました。



最先端の歯周治療

マイクロスコープ歯周科では,歯周組織検査をもとに歯周基本治療(プラークコントロール,歯石除去,咬み合わせの調整)等を行い,歯周基本治療後の再評価検査の結果,改善された場合はメインテナンス(定期検診)に移行します。

歯周基本治療を行っても4mm以上の深い歯周ポケット(健康な歯肉では,ポケットの深さは1〜3mm)が残存している場合や,歯周病により破壊された歯周組織を再生したい場合に歯周外科治療という手術を行います。

また,歯周組織の再生を期待する場合には,歯周組織再生療法(GTR法という膜を使用する手術;保険適用,またはエムドゲイン®というブタ歯胚から抽出したタンパク質を使用する手術;先進医療)を行い,骨の再生を促します。

歯肉退縮等の審美障害に対しては歯周形成手術(結合組織移植,遊離歯肉移植術等)と呼ばれる手術を行い露出している歯根面の被覆を行います。



連絡先

日本大学松戸歯学部付属病院 歯周科科長 教授 小方 頼昌 047-360-9546

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