日本大学松戸歯学部付属病院脳神経外科

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文献紹介

「特集:痛みを主訴とする脳外科疾患の診断のポイント」

日本大学脳神経外科
教授 平山 晃康
Department of Neurological Surgery、Nihon University School of Medicine
Teruyasu Hirayama M.D.,Ph.D.

要旨

椎骨動脈解離を診断する契機になる初発症状は、突発する片側の後頭部から後頚部にかけての痛みである。出血型では、解離による関連痛に加えて、くも膜下出血が頭痛の原因になっている。虚血型でも、同様の痛みが起きる。よって、中年の成人に片側の後頭部から後頚部にかけての頭痛が突発したときには、椎骨動脈解離を疑わなければならない。また、カイロプラクティックなどの頚部治療や、美容院などでのシャンプー後(hairdresser’s salon syndrome or beauty parlor syndrome)にも起こる可能性があるので充分注意が必要である。

キーワード:椎骨動脈解離、脳梗塞、くも膜下出血

1. 椎骨動脈解離とは

椎骨動脈解離の病因は、他の動脈の解離と同じである。動脈の内膜損傷の裂隙から血流が血管壁に入り込み、内膜と中膜ないしは中膜と外膜との間が解離するのである。中年の成人に、はっきりした誘因なしに発生する。椎骨動脈系の解離性動脈瘤も、そのひとつの病型である。

従来は、椎骨動脈解離と診断された症例の多くが、くも膜下出血によって発症したものであった1)。そのため解離性動脈瘤という名称が好んで用いられてきた。しかし解離性動脈瘤という呼称は、その病態の全体像を表現するには適していない。解離した血管の外膜側が動脈瘤のように拡大することよりも、内膜側から解離を生じていることのほうが本質的な病態だからである。実際には、くも膜下出血を起こさずに発症する椎骨動脈解離のほうがはるかに多い2)

この事実は古くから知られてはいたが、臨床的に明確に認識されるようになったのは、核磁気共鳴画像(MRI)ないしこれによる血管撮影(MRA)など非侵襲的画像診断が普及してきた最近のことである。

2. 見直されるべき罹患頻度

非侵襲的画像診断の普及に伴って、椎骨動脈解離と診断される症例は、ここ数年の間に急速に増加している。ちなみに当科で過去一年間に治療した椎骨動脈解離は16例である。この数字は10年前の8倍に達する。その多くは症状を残さず杜会復帰しているので、従来ならば原因の明かでない後頭部痛ないし後頚部痛として、対症療法のみが施されていた症例であろうと考えられる。

したがって現在でも、多くの自然経過の良い症例が椎骨動脈解離とは診断されないで、対症療法のみを受けている可能性がある。通常は自然経過が良いので大きな問題にはならないが、後述するように重篤な症状を起こすこともあるので、これが決して稀な疾患ではないことを認識する必要がある。

3. 病態:出血型と虚血型

椎骨動脈解離の病態は、くも膜下出血によって発症する出血型と、梗塞(小脳・脳幹部梗塞、Wallenberg症候群など3)) によって発症する虚血型に区別すると理解しやすい。出血型はくも膜下出血を起こす。中膜と外膜との間の解離により外膜側が拡大し、これが破裂して出血する。閉塞型は椎骨動脈系の虚血を起こす。内膜と中膜との間の解離により内膜側が狭窄し、これに伴ってさまざまな機転で梗塞が起きる。

しかし注意すべきことがある。初期には、明確な出血や虚血の症状を起こさない症例が多数あることである。その中には、しばらくしてから出血や虚血の症状を起こすものが少なからずある。最近になって重視されるようになったのは、このような症例を早期に診断して、出血や虚血の症状を未然に防止することである。

4. 診断:解離による関連痛

椎骨動脈解離を診断する契機になる初発症状は、なんといっても突発する片側の後頭部から後頚部にかけての痛みである。他のどの症状よりも先に、このような頭痛を起こすのが椎骨動脈解離の特徴であるといっていい。出血型では、解離による関連痛に加えて、くも膜下出血が頭痛の原因になっている。続いて通常のくも膜下出血より早く項部硬直が起きる。虚血型でも、解離による関連痛と考えられる限局的な激しい頭痛が起きる。明確な出血や虚血の症状を起こさない症例でも、解離による関連痛が初発症状であることには変わりがない。胸部大動脈解離の症状が突然の胸痛であるのと同じである。中年の成人に片側の後頭部から後頚部にかけての頭痛が突発したときには、椎骨動脈解離を疑わなければならない。また、カイロプラクティックなどの頚部治療、交通外傷、急激な頭部回旋あるいは後頚部に対する直達外力に引き続いて起こることがある4,5)。たとえば、美容院などでのシャンプー後(hairdresser’s salon syndrome or beauty parlor syndrome)にも起こる可能性があるので充分注意が必要である6)

5. 解離の画像化技術の進歩


図1:MRA:左椎骨動脈の拡大(大矢印)と狭窄(小矢印)


図2:MRI T1強調画像(単純)真腔と偽腔の二重内腔像(doub1e 1umen)を認める(矢印)。


図3:MRI T1強調画像(単純)壁内血栓ないしは血腫を認める(矢印)。


図4:MRI T1強調画像(造影)
fa1se 1umenがtrue lumenに隣接する異常な増強効果として認められる(矢印)。

従来、椎骨脳底動脈解離の診断を確定するには通常の血管造影が必要であった7,8,9)。椎骨動脈解離は、椎骨動脈の後下小脳動脈分岐部の前後から始まることが多い。椎骨動脈の拡大(dissecting aneurysm、図1)の他、狭窄(string sign、図1)ないし閉塞(tapered occ1usion)、拡大と狭窄の連鎖(pearl and string sign、図1)、二重内腔(doub1e 1umen、図2)などの所見が特徴である。

しかし最近は、血管径の拡大、狭窄、閉塞、pearl and string signなどをMRAでも捉えることができるようになった(図1)。単純MRIでも、解離を起こした血管の軸断面を観察すれば、壁内血栓ないしは血腫(図3)を検出できるし、これによって狭窄した血管内腔(true 1umen)の形状がsigna1 flow voidとして描出される。また造影MRIを撮影すると、解離した部分(fa1se 1umen)がtrue lumenに隣接する異常な増強効果として観察される(図4)10)

これらの侵襲の少ない画像診断によって椎骨動脈解離の診断を確定することが可能となったため、椎骨動脈解離と診断される症例が著しく増加したことは前述のとうりである。椎骨動脈解離を疑ったならば、ただちにMRIおよびMRAないしは通常の血管造影を行なって診断を確定すべきである。なお、くも膜下出血の有無はその後の治療を大きく左右するので、一般的な方法で確実に診断しておく必要がある。

6. 病態のダイナミックな変化

椎骨動脈解離は、拡張が増大するもの、狭窄から閉塞に至るもの、解離が脳底動脈に向かって進むものなど、時間とともにダイナミックな変化を示す。このような変化が、自然経過の過程でさまざまな症状を引き起こす。拡張が増大するものは出血型に多く、再出血の頻度も高い。出血型が白然経過の過程で再出血を起こす頻度は、報告者によって24%から71%までさまざまであるが、とても無視できない高さである。再出血の大部分は出血後1日以内に起きるが、稀に1ヶ月以上経ってから再出血することもある。出血型のものは、くも膜下出血による血管撃縮が後に虚血を起こすこともある。出血型のものが後に解離による閉塞を起こす頻度はまだ明かでない。

狭窄から閉塞に至るものはもちろん虚血型である。解離そのものないしはその周辺に形成された血栓によって、椎骨動脈あるいはその分枝に梗塞を起こす可能性がある。しかしWa11enberg症候群など局所的な梗塞にとどまるものが多い。閉塞に至らず二重内腔や内膜弁(intima1 flap)が残っているものは、すでに閉塞したものよりかえって危険である。出血型では拡張が増大して再出血する可能性がある。虚血型では白然経過の過程で出血を起こすことはきわめて稀である。それよりも解離が脳底動脈に向かって進み脳幹の広範な梗塞を生じたり、解離の周辺に形成された栓子 (embo1ic source)が末梢に塞栓を生じ、後大脳動脈などに梗塞を起こす可能性のあることが大きな問題である。

1ヵ月を過ぎれば治癒過程に入る。超音波診断によって50%の症例に血流動態の正常化が確認されたという。椎骨動脈解離が再発することは稀である。

出血や梗塞を起こせば出血型か虚血型に分類されるのは当然だが、初期には明確な出血や虚血の症状を起こさない症例が多数あることを忘れてはならない。初期の病態はダイナミックに変化するので、これをすばやく察知し臨機応変に適切な方法で対処する必要がある。このためにもっとも大切なのは、発症の当日にくも膜下出血の有無を明確にし、解離の形状を画像診断によって把握することである。その後は、神経症状の推移を細かく監視し、必要であればただちに解離の形状の変化を画像診断によって確認する。これらが適切な治療を選択するための要点である。

参考文献

  1. Aoki N, Sakai T : Reb1eeding from intracranial dissecting aneurysm in the vertebra1 artery. Stroke 1990;21:1628-1631
  2. Nakagawa K, Touho H, Chokyu K et al:Long-term follow-up study of unruptured vertebral artery dissecting. J Neurosurg 93: 19-25,2000
  3. Okuchi K, Watabe Y, Hiramatsu et al:dissectin aneurysm of the vertebral artery as a cause of Wallenberg’s syndrome. No Sinkei Geka 18:721-727.1990
  4. Mas JL, Henin D, Bousser MG et al: Dissecting aneurysm of the vertebral artery and cervical manipulation: A case report with autopsy. Neurology 39:512-515,1989
  5. Caplan LR, Zarins CK, Hemmati M: Spontaneous dissection of the extracranial vertebral arteries. Stroke 16:1030-1038,1985
  6. Shimura H et al . Stroke after visit to the hairdresser. Lancet 1997;13:350
  7. Kitanaka C, Tanaki J-I, Kuwahara M et al: Nonsurgical treatment of unruptured intracranial vertebral artery dissection with serial follow-up angiography. J Neurosurg1994;80:667-674
  8. Yamaura A, Watanabe Y, Saeki N: Dissecting aneurysms of the intracrarlia1 vertebra1 artery.J Neurosurg1990;72:183-188
  9. Yamaura A: Nontraumatic intracranial arterial dissection:Natural history, diagnosis and treatment. Contemp Neurosurg. 16:1-6,1994.
  10. Nagahiro S etal:Fo11ow-up eva1uation of dissecting aneurysms of the vertebrobasi1ar circulation by using gado1inium-enhanced magnetic resonance imaging. J Neurosurg1997;87:385-390

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